2015年12月17日
今年下半期は空前の女性作家による三姉妹が主人公の小説ラッシュ
商店街を舞台にした原田ひ香さんの『三人屋』、認知症の父と家族の温かく切ない十年を描いた中島京子さんの『長いお別れ』、昭和30年代の釧路を描いた桜木紫乃さんの『霧(ウラル)』、現在、「小説すばる」で連載中の山内マリコさんの『あのこは貴族』、そして、「新潮」で書き下ろした京都が舞台の綿矢りささんの『手のひらの京(みやこ)』。ここ半年の間に三姉妹が主人公であったり、登場した小説は五作品にものぼり、空前絶後の“三姉妹小説”ラッシュとなっています。舞台や時代設定、三姉妹の描き方などは当然異なりますが、女性作家それぞれの個性が随所に表れています。

朝は三女・朝日の喫茶店、昼は次女・まひるの讃岐うどん屋、夜は長女・夜月のスナック。お年寄りの多いラプンツェル商店街で、街の人には「三人屋」と呼ばれる「ル・ジュール」が再開店。原田ひ香さんの『三人屋』(実業之日本社)は、可笑しくてホロリとする商店街の人情ドラマ。一方で、中島京子さんの『長いお別れ』(文藝春秋)は、10年ほど前から認知症を患っている中学校長や図書館長を務めた父親は、長年連れ添った妻とふたり暮らしですが、サンフランシスコ在住の長女・茉莉、子育て中の次女・菜奈、フードコーディネーターの三女・芙美の三姉妹と孫もいます。両親と三姉妹の穏やかながらもしみじみとした愛と奮闘の物語。

また、桜木紫乃さんの『霧(ウラル)』(小学館)は、北方領土を奪われた昭和30年代の根室を舞台に老舗水産会社に生まれた三姉妹の愛憎を軸に描かれています。ヤクザの組長と恋に落ちた次女、政界入りを目指す運輸会社の御曹司に嫁いだ長女、金貸しを養子に迎えて実家を継ぐ三女の物語。取材で桜木さんは「書いていて不思議だなと思ったのは、持って生まれた気質と生まれ順はリンクしていて、人は与えられたポジションに忠実に生きていくものだな」と答えています。基本的性格は幼少期の体験によってほぼ決定されると言われますが、中でも最も影響を及ぼすのが兄弟姉妹の位置関係であるという学説もあるだけに興味深い発言です。

そして、「小説すばる」で連載中の山内マリコさんの小説『あのこは貴族』は、「榛原家」の三姉妹・三女の華子が主人公の小説。商社マンに嫁いだ長女や皮膚科医の次女とは年の離れた末っ子で、顔だちも愛くるしく素直な性分。そんな結婚適齢期の彼女は家族から「おめでたい話」を期待されており、結婚に向けた恋愛の変遷が描かれています。「新潮」創作特集の巻頭で書き下ろした綿矢りささんの小説は、京都を舞台にした三姉妹が主人公の作品。おっとりした長女、美人で華やかな次女、子どもの頃からお姉ちゃんたちより敏感なところがある三女。三姉妹を軸に人生の息吹を描いた長編。
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